はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

迷子のヒナ 171 [迷子のヒナ]

「あれ?レゴもお風呂?」

も?

グレゴリーは我が耳を疑った。この声は紛れもなく先ほど図書室で襲い掛かって来た、あの子供のものだ。

ここへ来てからの数時間、散々な目に遭って、やっと人心地つけたというのに……。極めてプライベートな場所へずかずかと入りこんで来て、まったく悪びれる様子もないとは、なんという不作法!わずか数十分しか一緒にいなかったが、このヒナという子はいかにもそういう事を平気でしそうな子だ。

ふんっ。そのへんは母親に似たのかもしれないな。ルールを無視して、周りの迷惑など顧みず、我が道を行ったかつての婚約者(仮)に。ニコラがいなければわたしはいい笑いものになるところだった。いまでは結婚しなくて本当によかったと心から思えるのだが、当時は絶対に許すものかと息巻いたものだ。だがニコラから結婚の条件として突きつけられたのは、自分を裏切った女の駆け落ちの手伝いだった。祝福しろとは言わない。けれど、何の問題もなく二人が結婚し、無事に日本へ行けるように手配しろとニコラは言ったのだ。

冗談ではないと反発したものの、結果はこれだ。

まあ、それでよかったのだが。

とグレゴリーは過去に思いを馳せながら「見ての通り、入浴中だ」と侵入者ヒナに告げた。念の為「ひとりで」と付け加えるのも忘れなかった。要は邪魔をするなという意味だ。

ヒナはふーんと適当に聞き流し、いそいそと服を脱ぎ始めた。

「お、おいっ!何をする気だ!」

「からだ洗うの。ダンが今夜の晩餐は、こうしゃくが一緒だから、きれいにしておきなさいって。ねえ、レゴ。こうしゃくって誰の事なんだろうね?」

グレゴリーは目を剥いた。
ヒナがすでに素っ裸になっていたからではない。

わたしは侯爵だと名乗らなかっただろうか?ああ、そうか、名乗らなかったのだ。だからスパイなどとあらぬ容疑を掛けられ、ニコラに絞り上げられることになったのだ。

まったく。とんでもない目に遭った。こっそり侵入はしたが、仕立てのよい服を見ただけで、その身分がわかるというものだ。あの馬鹿は(ジャスティンのこと)いったいどういう教育をしている?

と思っているうちに、ヒナが浴槽の淵に腰掛けていた。足先からそろそろと入り、こんなにも広いというのに、何と!膝に乗ってこようとした。

「こ、こらっ!」

ヒナの背中を押しやると同時に、壁伝いに場所を移動する。浴槽内でこれほど俊敏に動いたのは初めてだった。ホッとするグレゴリーの目の前で、足を滑らせたのか――もしくはグレゴリーが突き飛ばしたためか――ヒナが湯の中にぶくぶくと沈んでいった。

慌てたなんてものではない。

ざばざばと湯をかき分け、ヒナの腕を掴んですくいあげると、結局は膝の上に乗せる羽目になってしまった。

「大丈夫か?」

焦るグレゴリーを余所に、振り向いたヒナは手の中にしっかりと握っていた石鹸を差し出し、にっこり笑って言った。

「洗って」

洗って?

またしてもグレゴリーは我が耳を疑った。

つづく


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迷子のヒナ 172 [迷子のヒナ]

「あっ……そこ。うんんっ」

ああ、すごく気持ちいい。レゴの手は――魔法の手だ。

伸びすぎた髪の毛を洗うのはすごく大変。
ヒナはダンがいつもやってくれるように、グレゴリーに頭皮マッサージのお願いをした。当然グレゴリーは拒絶した。
だがヒナはしつこい。
グレゴリーが断れるはずもなかった。
そして結局、渋々のわりには、とても丁寧に頭を洗ってくれている。

「変な声を出すな」とグレゴリー。

注意されるのはこれで三度目だ。

「ねえ、レゴ――」ヒナは振り返ろうとした。が、がしっと指先十本で動きを止められた。

「おいっ、勝手に振り向くな。それからお尻をひとの足に乗せようとしないっ!まったく、君という子は、いけないと言われた事をいちいちやりたがるんだな」グレゴリーがぶつくさと零すのを聞き流し、ヒナは前を向いて訊き直した。

「レゴの胸はどうして毛むくじゃらなの?」

グレゴリーの手が止まった。「なんだって?」と頓狂な声を出し、それから唸り声を漏らすと、鼻息荒く頭皮マッサージを再開した。

「ベンは下におひげが生えてて、ジュスは……えっと、下はもじゃもじゃ上はさらさら、それでお父さんは下だけもじゃもじゃ、お母さんは下はふわふわで上はこんなんなの」とヒナは両手で母親の柔らかくて大きな胸を形作った。

「君は両親とお風呂に――」入っていたのか?そう訊きたかったのだろうが、気を遣ってかそれとも杏の裸体を想像してか、グレゴリーはあとの言葉はもにゃもにゃと濁した。

ヒナはグレゴリーの手が緩んだすきに振り返って、それから勢いよく立ち上がった。

「ヒナのも見て。ここに、ほら、見える?」ヒナは腰を突き出し、グレゴリーの眼前に股間を晒すと、先日発見した産毛を指差した。

「やめなさいっ!そんなもの見せてはダメだ」グレゴリーは手を伸ばし、ヒナの股間をすっぽりと覆い隠した。もちろん、生々しい代物には触れずに。

「そうなの?」

ヒナは素直に従い、今度はグレゴリーと向かい合うようにして湯に浸かった。

「もう、洗うのは終わりか?それならわたしはこの辺で失礼させてもらうが――」グレゴリーは腰を浮かせ、素早く退散できる体勢になった。

ヒナはそこで重要な事を思い出した。晩餐は六時で、ヒナは支度に時間が掛かるから――髪の毛を乾かすだけで相当な時間を要する――急いで入浴を済ませてくるようにと、ダンにしつこいくらい言われていたのだ。

「ヒナも失礼する!」とグレゴリーをまねて言ってみたのだが、ヒナの髪の毛はホイップクリームのように頭に乗ったままだった。

「それを洗い流してからにしなさい」とグレゴリーが言ったのも、当然のことだった。

つづく


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迷子のヒナ 173 [迷子のヒナ]

「ジャスティン、ちょっといいか」

いいはずない。

ジャスティンは胸の内で呟き、ソファに寛いで座るニコラの傍に立つグレゴリーに「なんでしょうか?」と不遜な態度で尋ねた。

晩餐の十五分前。
ヒナを部屋へ迎えに行ったら、もう少し時間が掛かると言われた。
今夜はグレゴリーが同じ席に着くからと、ダンはとびきりヒナをめかしこもうとしているらしい。ヒナの縋るような視線から逃れ、もしもヒナが遅れた時の為の言い訳をするため、自分だけ先に居間へおりたのだ。あと一〇分もすれば食堂へ皆で移動するが、いまのところ子供たちは姿を見せていない。遅れているのはヒナだけではないようだ。

「あの子の事だ」とグレゴリーがやや声をひそめ言った。

ヒナの事?

「いまですか?」ジャスティンは不機嫌に返した。あとでゆっくり大人三人で話し合う事に決めたはずだ。いつ何時ヒナがここへ駆け込んで来るか分からない状況で、込み入った話はしたくなかった。

「そうだ。あの子が姿を見せる前に言っておきたい――いや、訊いておきたい事がある」

完璧なまでの身なりとは裏腹に、どこか挙動不審めいた様子のグレゴリーに、ジャスティンはかえって身構えた。

「なんですか?」そう言った声はどこかうわずっていた。

「まあ、そんな怖い顔しないの、ジャスティン。この人はあなたがヒナをちゃんと教育しているのか心配なんですって」ニコラが二人の間をとりなす。

「ヒナにはちゃんと家庭教師をつけていますが?」ジャスティンはニコラにではなく、グレゴリーに向かって言った。

「あの子は礼儀が全くなっていないではないか」グレゴリーが馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

カッと頭に血がのぼる。

「礼儀?言葉だってやっとの事で覚えたんですよ。心に負った傷は計り知れないというのに、礼儀なんかにかまっていられますか?ヒナにはどこの誰が偉い人でなんてことは関係ないんです。ヒナにとっては、兄さんは俺の兄でしかないし、ニコラだって姉でしかない。言っている意味が分かりますか?」

「お前の言葉の意味くらい分かる」

「わたしの屋敷で仲の悪い兄弟を演じるのはやめてちょうだい。グレッグはね、ジャスティン――」ニコラはそこでたっぷりと間を取り、いやらしいほどの満面の笑みをみせ「ヒナと一緒にお風呂に入ったらしいわよ。洗いっこしたんですって」と言って、声を立てて笑った。

笑い事ではない。ジャスティンは卒倒しそうになった。
ベネディクトやライナスと一緒にお風呂に入るのとはわけが違う。

「洗いっこなどとそんなことするはずがないだろう!ニコラ、わたしを侮辱するような言葉は慎みたまえっ!」グレゴリーはいきり立った。ニコラはけらけらと上品とは言い難い笑い声を上げている。

「だったら何をしたんですか?」もしもヒナの身体に触れでもしていたら、ただではおかない。

「頭を洗えと言われたから、洗ってやったまでだ」

「わたしは一度もそんなことして貰ったことないのに」とニコラが口を挟む。

グレゴリーは妻をさっと睨み、「あの子はわたしに髪を洗えと言ったんだぞ!このわたしにだ」それから弟を睨みつけ「お前がどういう教育をしているのか疑って当然だろう?バスルームへずかずかと入りこんで来て、勝手に膝の上に乗って髪を洗えと石鹸を差し出したんだ、礼儀以前の問題だ。お前がちゃんとしつけていないから――」と、ここまで言い切ったところで、グレゴリーは余計なことまで口にしたことに気付いたのか、大口を開けたまま固まってしまった。

「やるわね、ヒナ」とニコラが感心しきって言った。

冗談じゃないっ!
ヒナがこいつの膝の上に?

「ジュス~」

逆上しているジャスティンの元へ、正装したヒナが現れた。迷うことなくこちらへ駆けてきて、大袈裟な仕草で腰に腕を回し、ひしと抱きついた。

そういえば、数時間前にヒナが抱きついていた相手はグレゴリーだった。
そのことについても、バスルーム事件もろとも、グレゴリーの言う通りヒナをしつけなおす必要がある。

ジャスティンは硬い表情のまま、グレゴリーと視線を交わした。
初めて兄弟が同じ目的の為に合意した瞬間だった。

つづく


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迷子のヒナ 174 [迷子のヒナ]

「ねえ、ジュス。今日はこうしゃくが来るんだって。だからいつもよりお行儀よくしなきゃダメだって、ダンが――」

はりきりヒナは当の侯爵が顔を引きつらせているとは露ほども思わず、ダンからのとびきりの情報をジャスティンに伝えた。

ジャスティンは満足げに微笑んだ。
背中を向けていてもグレゴリーがムッとしているのが伝わってきたからだ。

「そうか。よし、まずはニコラとグレゴリーに挨拶だろう?」そう言って、ジャスティンはさり気ない仕草でヒナを身体から引き離した。

まったく。どうしてもくっつかずにはいられないこの二人。
ここではベタベタしない約束だったのに、ヒナにしてもジャスティンにしても約束を守る気などさらさらないといった態だ。

ここまでくれば、二人の関係が少しくらい怪しまれてもおかしくはないのだが、なにせほとんど知らない相手とも裸の付き合いをしたヒナだ、いまさらジャスティンに抱きついたからといって、変に勘ぐる者はもはやこの屋敷にはいないだろう。

ヒナはジャスティンに促され、ニコラの傍に歩み寄った。

「こんばんは、ニコ」
ヒナは紳士らしく、ニコラの差し出した手を取って指の関節にそっと口づけた。
ついでに、差し出してもいないグレゴリーの手も取ろうとしたのだが、あえなく拒絶の憂き目にあった。

仲良しになったはずなのにとヒナは不満そうに口を尖らせ、ジャスティンの元へ戻った。

「ヒナ、いい匂いがするな」とジャスティン。やや皮肉った物言いだったが、ヒナは得意満面。グレゴリーの方を見やり、青いリボンで結んだ巻き毛をぶんぶんと振り回した。

今度はジャスティンがムッとする番だった。

これではまるで親密なのは自分とではなく、グレゴリーとだと見えなくもない。

もちろんそう思うのはジャスティンだけだが、嫉妬に目をぎらつかせる男に周りの目など正確に読み取れるはずもなかった。

そこへライナスが、久しぶりに会う父親の様子を伺いながら入って来た。やっと部屋から解放されたようだ。
ライナスはヒナがジャスティンにそうしたように、父親に思い切り抱きつきたそうだったが、頬を上気させもじもじとするだけで、それを見ていたヒナでさえじれったくさせた。

けれどさすがのヒナも、親子の間に割って入る事はしなかった。そのうちニコラがお父様に挨拶しなさいと傍に呼び、結局ライナスは我慢しきれなかったようで、喜びもあらわに父親に抱きついた。

ジャスティンは、正直グレゴリーがこういう触れ合いを好んでいないと、これまでは思っていた。実際そうだったからだ。

だが、ここニコラの屋敷ではすべてが違って見えた。グレゴリーという人間のすべてが。

ジャスティンの知る兄の姿と、ここでの姿と、いったいどちらが本当の兄の姿なのだろうか?

どちらにせよ、ニコラの存在が影響を与えていることは間違いなかった。
グレゴリーは正真正銘、妻を愛しているのだ。これは驚くべき事だった。

つづく


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迷子のヒナ 175 [迷子のヒナ]

ヒナは食事の間ずっと“こうしゃく”の登場を心待ちにしていたのだが、結局その人は現れなかった。

せっかくお行儀よくしていたのにと、デザートと共に子供たちだけで居間へ場所を移したときも、がっくりと肩を落としたままだった。

それでも子供たちの囲むテーブルに次々とデザートが並べられていくにつれ、ヒナの落ちた肩も元に戻り、表情もグッと明るくなった。

「きっと大人たちだけでもっと美味しいもの食べるんだよ」ソファにちょこんと腰かけるヒナの耳元で、隣に座るライナスがこっそりと囁いた。

ヒナは素早くライナスを見た。

「もっと美味しいものって?」興奮気味に訊き返したときには、“こうしゃく”のことなど頭からすっぽりと抜け落ちてしまっていた。美味しいものの正体を突きとめなきゃ。

ライナスは「わかんない」と言って残念そうに首を振った。「大人は秘密が多いんだ」

「バックに訊いてみる?」

ヒナは戸口で給仕係にあれこれ指図しているバックスに目を向けた。

「バックスはお母様の味方だから教えてくれないかも」
ライナスはナッツのたっぷり入ったパウンドケーキを自分の皿に取って、はちみつをとろりと上から垂らした。

ヒナも真似をしようとパウンドケーキに手を伸ばした。ここにこれだけ美味しいものがあるのに、これ以上は欲張りというものだ。それにニコラの強さを目の当たりにしたあととあっては、余計な詮索はやぶへびというもの。

「うん、そうかも」
ヒナは引き際を心得ていた。
これは常日頃ジェームズと渡り合っているヒナが本能的に学んだものだった。
ヒナとて、いつも無分別に行動しているわけではない。


「お前、お父様と一緒にお風呂に入ったって?」
テーブルを挟んだ向こう側で、ずっと不機嫌にしていたベネディクトが、棘のある口調で尋ねた。

「えーそうなの、ヒナ?僕のお父様なのにっ!」ライナスが羨望と悔しさの入り混じった声をあげた。

ヒナは申し訳ない気持ちになった。

「だって、レゴがいたんだもん」

「じゃあ僕はジャスティンおじさんとお風呂に入る!」ヒナの言い訳には納得せず、なぜか張り合うライナス。

ダ、ダ、「ダメっ!」ヒナだって一緒に入ったことないのにっ!!

「だめ?だっておじさんはまだお風呂に入ってないでしょ?僕もまだだもん。お兄ちゃんも一緒に入る?」

「僕はいい。ひとりで入る」ベネディクトはにべもなくその提案を退けた。

「じゃあ、ヒナが一緒に入る!」

「ヒナはもう入ったでしょ」

むむっ。ライの意地悪。

「あ、あれー!クリームが髪についちゃった」

ヒナは強硬手段に出た。
トライフルのホイップクリームを口に入れるふりをして、肩に掛かった髪にべったりと塗りつけたのだ。勿体ないので、髪の毛ごと口に含んでちゅうっと吸った。視線を感じ目だけきょろきょろ動かすと、ライナスもベネディクトも呆れ顔で紅茶を啜っていた。

だって……ジュスはヒナのものだもん。

つづく


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迷子のヒナ 176 [迷子のヒナ]

ヒナの健闘むなしく、ジャスティンとの入浴は次回へ持ち越された。
というのも、髪のべたつく部分だけをダンが見事な手さばきで洗い直したからだ。

ヒナのそんな苦労を全く知らないジャスティンは、夜遅くになってやっと自室へ戻った。

ベッドへ前から倒れ込み、思わず拳を叩きつけた。

ウェインが背後でブツブツこぼしながら、足元に跪いて靴を脱がしにかかった。

ぐったりするのも当然。
グレゴリーはなにかにつけ細かいのだ。
ニコラが早々に部屋へ引き上げてからというもの、水を得た魚のように生き生きと辛辣な言葉を連発。子供の頃は身体的にいたぶるのを主としていたが、いまは精神的に痛めつけて喜びを得るらしい。くそサディストめっ!

「旦那様、ちょっと動かしますよ」

ウェインはベッドと腹の間に腕をさし込んできた。この馬鹿はどうやら、ひとの身体を丸めた絨毯のように転がすつもりだ。

「やめっ!」と言ったが遅すぎた。ジャスティンの身体は反転し、相手に服従を示すかのように腹を晒した。屈辱だ。

「もういい。さがれ」と強い口調で命じ、なんとか主人としての面目を保った。ウェインは近侍として当然の仕事をしているのだが、なにぶん仕事が雑なのだ。

ひとりになって、ひとまず上着を脱いだ。ウェインが去り際に皺がどうのこうのとぼやいていたからだ。
それから深い溜息をひとつ吐き、おもむろに立ち上がると、ヒナの部屋へ続くドアを開けた。

あの浮気者をきちんと諭しておかなければ。今後一切、グレゴリーはおろか誰とも裸の付き合いをさせないために。まったく。あの羞恥心のなさは誰に似たのやら。それともやはり俺の養育の仕方に問題があったのか?だからこそ保護者失格だのなんだのと、グレゴリーに責め立てられることになったのかもしれない。

部屋へ入ると、ベッド脇に立つダンの姿が見えた。ちょうどヒナを転がしていた。さきほどジャスティンがそうされたように。

「わあ!旦那様」とダンが驚いて声をあげた。

「ヒナは寝ているのか?」

「ええ、そうなんですよ。ちょっと様子を見に来たら、夜会服のままベッドに転がっていて、皺になっては困るし、脱がせようとしていたところです」

ふんっ。どいつもこいつも服の皺の事しか考えていない。

「俺がやっておく。さがれ」とダンを追い払った。

ベッドの上で大の字で眠るヒナ。青いリボンは取れてしまったようで、艶々の髪が鬣のようになびいている。

ジャスティンはベッドに座り、ヒナを膝に抱えた。

ヒナはうぅんと唸って、ぎゅっと抱きついてきた。無意識下でもこうやって求めてくれる。

説教は明日でいいか、とついほだされてしまう。

ジャスティンはダンに約束した通りヒナを裸にすると――脱いだものはベッドの下に放り投げたが――そのままそこで朝まで眠った。

つづく


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迷子のヒナ 177 [迷子のヒナ]

朝、まだ暗いうちに目が覚めた。

使用人たちが起き出すまではたっぷり一時間。階上の人々が起き出すのはもっとずっと遅い。

腕の中でまるまるヒナの寝息が熱風に感じるほど、部屋の空気はひんやりとしていた。

ジャスティンはヒナの髪をかき分け、冷気に晒された薔薇色の頬に口づけた。ヒナはまだ目覚める様子はない。くちびるを耳の付け根へと這わせても、幸か不幸かヒナからは規則的な息づかいしか聞こえてこなかった。

なぜか、いましかないと思った。

昨夜のグレゴリーとの長い話し合いの中で、ヒナとの別れの可能性もあるのだと思い知らされた。ヒナには祖父がいる。悔しいが、あのパーシヴァルとでさえ血のつながりがある。もちろん日本にも血縁者が大勢いる事だろう。たとえ誰一人として、ヒナが生きていることを望まなかったとしても、血のつながりを否定することは出来ない。

今後、ジャスティンがしようとしていることでヒナが日本へ帰ってしまう可能性がある。

離れるなど、別れるなど、とんでもない話だ。
なにがあろうともヒナを手放すつもりはないし、ヒナも同じように離れたくないと思って欲しい。

だからこそ、いま、絶対に手出ししないと決めていたヒナとひとつになる決意した。

ジャスティンはヒナの喉元にくちびるを押し付け、強く吸った。ヒナが驚いて手足をばたつかせ、泣きそうな顏でジャスティンを見上げた。

「目が覚めたか?」ジャスティンはヒナを宥めようと、愛情たっぷりの優しい声音で尋ねた。

ヒナは意味が分からないといった様子で、首を横に振った。

「じゃあ、まだ寝てる?」

ヒナは、うんと頷いた。

ジャスティンは笑った。寝惚けたヒナは嘘をつくようだ。だったらこれならどうだ?

「ヒナが欲しい。ヒナを愛している。ヒナは?ヒナも愛してくれているか?」

否定されるとは露ほども思わなかった。

ヒナは目をしばたたき、ジャスティンの言葉を寝惚けた頭で反芻すると、こくこくと何度も頷いた。そして、「ヒナも」と掠れた声ですべてに答えた。

つづく


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迷子のヒナ 178 [迷子のヒナ]

ヒナは待っていた。

そう、ずっと待ち望んでいたその日がやっと来たのだ。

ヒナはベッドの上で両手両足をばたつかせ、飛び上がらんばかりの喜びを爆発させた。ほんとはぴょんぴょん飛び跳ねたかったが、おとなしく待っているようにとジャスティンに言われたため、シーツをぐしゃぐしゃにするにとどめた。

ジャスティンが部屋に鍵をかけ戻って来た。

ヒナは両手を広げてジャスティンが胸に飛び込んでくるのを待った。我ながら辛抱強いと自分を褒めたくなった。いまにも飛びかかりたくてうずうずしているのだから。

「ヒナ、冷えるから毛布を掛けなさい」

冷える?
とんでもないっ!

「熱いもんっ!」

「そうか?だったら温めて貰おうかな」ジャスティンはいたずらっ子のように、ニッと笑った。

ベッドの端がジャスティンの重みで傾ぎ、わずかに軋んだ。足元に蹴飛ばされた上掛けを掴んで、ジャスティンはヒナの胸に飛び込んできた。重みで潰さないように気遣ったのか、ふんわりとかるく。じれったい!ヒナは堪らずジャスティンの身体にしがみつくように手を伸ばししかと抱きしめた。

ふたりは上掛けにすっぽり覆われた。

ジャスティンの身体はすっかり冷えていた。けれどその冷たさがやけに心地よかった。
頬に手が添えられ、キスをされた。その唇は熱く、激しく、ヒナをとろりととろかせた。舌がなめらかに滑り込んできたとき、お腹が痛いくらいに疼いた。とろけていた身体の一部が硬くなるのを感じ、そこに触れて欲しくて、ヒナは腰を突き出した。弓なりになった背をすくいあげられ、腰を突き返された。ジャスティンのソレは大きくてとても硬くて、なぜか自分がそれを求めているのだと感じた。

ヒナはされるがままではなかった。ヒナもジャスティンの中に舌を入れ、追いかけ、絡ませた。ジャスティンは温かく迎えてくれて、もっと暴れるようにとヒナを誘惑した。

こんなジャスティンは初めてだった。いつも遠く手の届かない場所で、ヒナを翻弄しめろめろにする。だからお返しに、今度はヒナがジャスティンをめろめろにするのだ。

「ああ……ヒナ」

ジャスティンに懇願されヒナは得意になった。けれどそれも束の間、あっさりと主導権を奪われ、今度はヒナが懇願する事となった。

ジャスティンの唇が喉元を伝い、くっきり浮き出た鎖骨を辿った。唇がヒナの桃色の乳首を吸い始めたとき、ヒナは我慢できず自分でも聞いたことない声を漏らした。

ヒナは柄にもなく恥ずかしくなった。同時に思考がバラバラに砕け散った。

頭の片隅で、事の成り行きを信じられずにいたのに、そんな疑惑もどこかへ吹き飛んでしまった。

ジャスティンの指の背が、わき腹を撫でるようして上から下へと流れて行った。太ももを何度も上下する指先に背筋がぞわぞわと打ち震えた。

ヒナはジャスティンが欲しかった。

シモンのアドバイスのおかげで誘惑に成功したのだから――眠っている間に、なぜか――次はきっとふたりはひとつになる。シモンは言葉を濁していたけど、好き合っていたらひとつになるのは、とても簡単なことなのだと言っていた。相手を信じることが成功の秘訣らしい。

ヒナはジャスティンを信じている。
誰よりも。おそらくお父さんやお母さんよりも。

これからなにが起こるのかヒナにはわからなかった。
けれど、ジャスティンになら何をされたっていい。

それほどまでに、ヒナはジャスティンを愛していた。

まごうことなくふたりの気持ちはひとつだった。

つづく


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迷子のヒナ 179 [迷子のヒナ]

「怖くないか?」ふいにジャスティンが言った。

ヒナはほとんど上の空でその言葉を聞いていたが、「こわくない」と即答した。

こわいなんてことあるはずない。あるとしたら、この親密な行為をジャスティンが途中でやめてしまう事だけ。

ヒナの知識はそこそこ増えていた。シモンのおかげで。だから恋人同士がすることもそこそこわかっている気でいたが……。

「ひゃっ!」

ジャスティンの指が予想外の場所に触れたため、ヒナは驚いて声をあげた。間違えているのだと思った。けれど指先で擦られているうちに、キスをされているときと同じような感覚に陥った。ふわふわと足元のおぼつかない、それでいてすべてを安心して委ねられる心地よい感覚。

それでもヒナはかなり力んでいたようで――

「ヒナ、やめてもいいんだぞ」ジャスティンが優しく問う。

「や、やだ!こわくない!」ヒナは必死に大丈夫だという事をアピールした。

「だったら、ほら、力を抜いてごらん。大丈夫だから」ジャスティンはヒナの鼻先に自分の鼻先を擦り付け、ゆっくりと濃密に口づけた。

ヒナはそのキスに応えながらこくんと頷き、全身の力を抜いた。すると間もなくジャスティンの指がつるんとそこへ入った。ああ。やっぱりそこに入っちゃうんだ。薄々、そこかなーとは思っていたヒナだが、いざそうなるとやはり驚きを隠せなかった。

「いい子だな、ヒナは。ほら、たっぷりと濡れて、ここまでぐしょぐしょだ」
ジャスティンはそう言いながら、指を奥へ奥へと突き進めた。わざと恥ずかしい言葉を使っているのだと気付いたけれど、その言葉にどうしようもなく感じてしまい、ヒナは昂ぶりの先端からさらに蜜を滴らせた。

「ヒナ、いい子だから、もっとして」ヒナは懇願した。もっと先があると想像できたから。そう考えただけで、ヒナの押し広げられた窄まりはヒクンと疼いた。

「ああ、もっとする」ジャスティンは感極まった声でそう言い、ヒナに荒々しく口づけた。舌が奥まで入り込んで来て、ヒナの身体は喜びにわなないた。ツンと尖った乳首にジャスティンの柔らかい胸毛が擦れ、ヒナの口元から喘ぎ声が漏れた。

秘所に差し込まれた指がいつのまにか二本に増えていた。それとも三本だろうか?ちょっとやそっとの圧迫感でないことは確かだ。

ヒナは愛情を込めてジャスティンを見つめた。額には汗が滲み、最初は冷たかった身体も火傷しそうなほど熱くなっている。火傷しなくて済んだのは、ヒナも同じように熱くなっているから。ヒナはジャスティンの背に細くて頼りない腕を回し、この先に待っている何かを催促した。もう、何かが何なのか見当はついている。

ヒナは確信していた。自分の中に、ジャスティンが入って来ることを。
それがいつなのか、けど、きっと、もうすぐだ。

つづく


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迷子のヒナ 180 [迷子のヒナ]

なにが、たっぷり濡れてぐしょぐしょだ、だ!
自分の方は爆発寸前だというのに、ヒナ相手にくだらない言葉攻めなんかして。こういうことを言われて喜ぶのは、変態パーシヴァルくらいなものだ。いや、もっと他にもいるが……いまはそんなことどうだっていい。

ジャスティンにとってもこの行為自体久しぶりの事だった。
ヒナが不安がるのと同じくらいジャスティンも不安だった。ヒナを傷つけはしないかと。

ヒナを大切に思うあまり、慎重になり過ぎてしまっては、ことを終わらせる前に邪魔が入ってしまう。そうならないように細工はしたが、確実とは言い難かった。だからこそ、ほんの少し、スピードアップする必要がある。

もっと時と場所を選べばよかっただけの話だが、いまのジャスティンには後先を考えている余裕も、そんな気もさらさらなかった。

なぜならば、ヒナが期待と興奮、好奇心で目を輝かせているから。
ジャスティンは笑うしかなかった。いつもと変わらないヒナ。愛しさが一段と増し、もう何度目か分からないキスをヒナの唇に落とすと、小さくて奔放な身体をぎゅうっと強く抱きしめた。

もう準備は整っている。少なくともジャスティンのほうは。
ヒナはといえば――

さっきからひとの先っちょをいじくりまわしている。誘い上手もいいところだ。

やめなさい。とも言えず、ジャスティンはヒナの手をやんわりと振り払い、自分でしかと握り締めると、大きく広げたヒナの股の間の最も秘められた部分に押し当てた。

ヒナの身体が一瞬こわばった。濡れそぼった先端で秘所を擦ってやると、ヒナは羽毛で喉を擽った様な甘い吐息を洩らし、ゆっくり目を閉じた。

ジャスティンは躊躇わなかった。
何度か入口をつついたあと、熱い湯に冷えた身体が馴染んでゆくようにじんわりとヒナの中に押し入った。

ようやく先端がすっぽり入りこんだとき、さすがのヒナも想像以上の身体への圧力に屈しそうになっていた。目は大きく見開かれたまま、呼吸も忘れ、両手をジャスティンの胸に押し当てた状態で固まっている。いざとなったら突き飛ばすつもりかもしれない。

「やめるか?」

ヒナは固まったまま、頭を左右に一度だけ振った。

ジャスティンは安堵し、奥へ進んだ。

つづく


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